「ヨハネ福音書から････イエスはよい羊飼い」
                                                                ２００８年４月２０日

「イエスはまた言われた。「はっきり言っておく。わたしは羊の門である。わたしより前に来
た者は皆、盗人であり、強盗である。しかし、羊は彼らの言うことを聞かなかった。わたしは
門である。わたしを通って入る者は救われる。その人は、門を出入りして牧草を見つける。盗
人が来るのは、盗んだり、屠ったり、滅ぼしたりするためにほかならない。わたしが来たのは、
羊が命を受けるため、しかも豊かに受けるためである。わたしは良い羊飼いである。良い羊飼
いは羊のために命を捨てる。羊飼いでなく、自分の羊を持たない雇い人は、狼が来るのを見る
と、羊を置き去りにして逃げる。――狼は羊を奪い、また追い散らす。――彼は雇い人で、羊
のことを心にかけていないからである。わたしは良い羊飼いである。わたしは自分の羊を知っ
ており、羊もわたしを知っている。それは、父がわたしを知っておられ、わたしが父を知って
いるのと同じである。わたしは羊のために命を捨てる。わたしには、この囲いに入っていない
ほかの羊もいる。その羊をも導かなければならない。その羊もわたしの声を聞き分ける。こう
して、羊は一人の羊飼いに導かれ、一つの群れになる。わたしは命を、再び受けるために、捨
てる。それゆえ、父はわたしを愛してくださる。だれもわたしから命を奪い取ることはできな
い。わたしは自分でそれを捨てる。わたしは命を捨てることもでき、それを再び受けることも
できる。これは、わたしが父から受けた掟である。（ヨハネによる福音書10:7-18）」

  今日の聖書のカ所、ヨハネによる福音書10:7-18 でイエス様が「よき羊飼いと羊の群」に譬

えて言われたことは、丁度パウロとフィリピの教会の人々との関係、すなわち伝道者と伝道さ

れた者、牧者とその羊の群との関係であり、信頼と愛に根ざしたものです。

  日本のように羊の牧場のない国、あっても六甲山牧場のような牧歌的な長閑な牧場しかない

国では本当の羊飼いの生活がどんなものであるか、ほとんど想像することもできません。「良

い羊飼いは羊のために命を捨てる」ということですが、どうして羊のために命まで捨てなけれ

ばならないのか、理解に苦しみます。ところがイスラエルのような風土の土地で、しかも2000

年も昔には、羊飼いという職業は実に過酷なものでした。そのことを、キリスト新聞社版『聖

書辞典』から部分的に引用してみましょう。「ひつじかい、(中略)実際の職業としては牧畜は

安易な生活ではなかった。羊飼いの粗服は、その粗野な生活の厳しさを反映している。(中略)

羊飼いは、新しい牧草地を求めて、涼しい月明かりの夜に遠隔の地に移動しなければならない

こと、不意の敵の襲撃に立ち向かわねばならぬことなど労苦も多い。(中略)乾燥した、暑さの

厳しいパレスチナでは、家畜には規則的に水を与える必要があり、毎日、井戸辺に導いて水を

与えねばならなかった（創24：20、創29：3、創29：8、出2：16)。そこでは水をめぐって争い

が起こることもあった（創21：25、創26：20、出2：17)。 また野獣（サム上17：34）、盗人

（創31:39、ヨハ10：8）などの来襲から、群れを守らねばならなかった。」盗まれたり殺され

たりした場合、羊飼いは群の所有者に自分の給料から弁償しなければならなかったようです。

（創31:36-42）そこで「羊飼いは、樫材の杖、釘を打ち込んだこん棒、また投石袋などを持っ

て野獣から群れを守った。そのために羊飼いは時には血を流し、生命を捨てることさえあった

（ヨハ10：11）。」というのです。

  さて、イエス様がご自分のことを、そういう羊のために命を捨てる良き羊飼いだとの自覚を

もたれたのにはわけがあります。イエス様は幼い時から、シナゴグと呼ばれるユダヤ教の会堂

で読まれる聖書に耳を澄ませて聞き、非常によく理解し暗記しておられたようです。その知識

の中に羊飼いや羊の群のことがいくつもあって（聖書に一回も登場しない猫と違って、羊はな

にしろ７０３回も出てくるのですから）コンピューターで語句の検索をするように口をついて

出て来ました。そのいくつかをたどってみましょう。まず神様が良い羊飼いに譬えられている

ところです。

「主は羊飼いとして群れを養い、御腕をもって集め／小羊をふところに抱き、その母を導いて

行かれる。(イザヤ書40:11）」「諸国の民よ、主の言葉を聞け。遠くの島々に告げ知らせて言

え。『イスラエルを散らした方は彼を集め／羊飼いが群れを守るように彼を守られる。』 (エ

レミヤ書31:10）」「万軍の主はこう言われる。人も住まず、獣もいない荒れ果てたこの場所で、

またすべての町々で、再び羊飼いが牧場を持ち、羊の群れを憩わせるようになる。（エレミヤ

書33:12)」そして何よりも私たちの口になじんでいるのはあの「主はわが牧者なり」という詩

編23篇でしょう。「主は羊飼い、わたしには何も欠けることがない。主はわたしを青草の原に

休ませ／憩いの水のほとりに伴い魂を生き返らせてくださる。主は御名にふさわしく／わたし

を正しい道に導かれる。死の陰の谷を行くときも／わたしは災いを恐れない。あなたがわたし

と共にいてくださる。あなたの鞭、あなたの杖／それがわたしを力づける」というのです。こ

こで歌われている「鞭」「杖」は羊を導き、外敵から守る武器です。昔の文語訳の聖書ではこ

の「鞭」が「笞(ｼﾓﾄ)」となっています。とりわけ名調子のところでから読んでみます。

「主はわが牧者なり、われ乏 (ﾄﾎﾞ)しきことあらじ。主は我をみどりの野にふさせ、いこひの

水濱(ﾐｷﾞﾊ)にともなひたまふ。主はわが霊魂(ﾀﾏｼﾋ)をいかし、み名のゆゑをもて我をただしき

路(ﾐﾁ)にみちびき給ふ。たとひわれ死のかげの谷をあゆむとも禍害(ﾜｻﾞﾊﾋ)をおそれじ、なんぢ

我とともに在せばなり。なんぢの笞(ｼﾓﾄ)なんぢの杖われを慰む。」

  お聞きのように鞭でなく笞 (ｼﾓﾄ)です。これはどうやら私たちが鞭という言葉で想像する細

くて柔らかいものではないようです。『聖書辞典』には「家畜を制御するために用いた農具の

一つ。長さ2.7mほどの棒で一端をとがらせ、あるいは金具を付けたもの。」とあります。士師

記3:31に「エフドの後、アナトの子シャムガルが現れ、牛追いの棒でペリシテ人六百人を打ち

殺した。彼もイスラエルを救った」とある「牛追いの棒」というのがそれで、口語訳では「鞭」

と訳されていましたが、柔らかい鞭では 600人もの人は殺せません。相当な代物であったと考

えられます。さらに『聖書辞典』は「羊飼いの持つ棍棒で，樫の木で作られた。長さ75cmほど，

家畜を野獣から守る時に用いた」と説明しています。そのような野獣や敵を撃ち殺すための強

力な武器を携行していた羊飼いの仕事が、長閑で牧歌的なものではなかったことをうかがわせ

ます。

  その羊飼いが仕事を怠けるとどうなるか。その時、迷える羊、養われない羊ができて来ます。

聖書は言います。「わが民は迷える羊の群れ。羊飼いたちが彼らを迷わせ／山の中を行き巡ら

せた。彼らは山から丘へと歩き回り／自分の憩う場所を忘れた。（エレミヤ書50:6）」「テラ

フィムは空虚なことを語り／占い師は偽りを幻に見、虚偽の夢を語る。その慰めは空しい。そ

れゆえ、人々は羊のようにさまよい／羊飼いがいないので苦しむ。（ゼカリヤ書10:2）」「災

いだ、羊を見捨てる無用の羊飼いたちは。剣が、その腕と右の目に差し向けられる。その腕は

力を失い、右の目はかすむ。」（ゼカリヤ書11:17）」 新約にはこんな記述があります。「イ

エスは町や村を残らず回って、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、ありとあらゆる病気や患

いをいやされた。また、群衆が飼い主のいない羊のように弱り果て、打ちひしがれているのを

見て、深く憐れまれた。（マタイによる福音書9:35-36）」

  以上で分かりますように、羊飼いは人々のリーダーであり、守り手であり、さらにはメシヤ、

救い主を表していることが分かります。しかもそのリーダーはいわゆる支配者、権力者ではな

く、民のために自らの命を捨てる者であります。イエス様が今日のテキストであるヨハネによ

る福音書10:7-18 の言葉を口にされたということは、自分は良い羊飼いとして、必ず命を捨て

なければならない運命にあるとの強い自覚を持っておられたことを示唆します。前にも言いま

したがヨハネ福音書の特徴の一つはイエスの生涯の早い段階から受難の予告が出ていることで

す。ヨハネ2:13-22 の「宮潔め」と言われる物語ですが、他の三つの福音書では御生涯の最後、

十字架におかかりになる直前のところで語られる、それはこの宮潔めということが十字架を予

感させる事件であるからなのですが、それに対して、ヨハネ福音書だけがイエス様の伝道の生

涯の初期のところに置いています。それには特別な意図があったものと思われます。つまり、

これから語るイエスの生涯は、ひとえに十字架と復活の準備であるとの考えによるのでしょう。

そしてイエス様御自身が早くから十字架と復活を自覚しておられたことを表しているのでしょ

う。

  今、十字架だけでなく、復活をも自覚しておられたと申しましたが、それはテキストの17節

以下「わたしは命を、再び受けるために、捨てる。それゆえ、父はわたしを愛してくださる。

だれもわたしから命を奪い取ることはできない。わたしは自分でそれを捨てる。わたしは命を

捨てることもでき、それを再び受けることもできる。これは、わたしが父から受けた掟である」

ということから言えることです。

  またこうも言われます。「わたしは良い羊飼いである。わたしは自分の羊を知っており、羊

もわたしを知っている。それは、父がわたしを知っておられ、わたしが父を知っているのと同

じである。（中略）わたしには、この囲いに入っていないほかの羊もいる。その羊をも導かな

ければならない。その羊もわたしの声を聞き分ける。こうして、羊は一人の羊飼いに導かれ、

一つの群れになる」と。ここには、父なる神と、子なる神イエス・キリスト、そして救われた

すべての人々、全世界の民族の作る大きなサークル、一つの大きな教会、神の国の構想が描か

れています。イエス様はその御生涯の初期にこのような素晴らしい大きな天国の図を描いてお

られたのです。その群に入れていただく、価なくして入れていただく幸いを思わずにいられま

せん。

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