全国自然保護連合編『自然保護事典』②〔海〕緑風出版１９９５年

『入浜権の概要と法的側面（山川藪沢の法･･･万人権）』

髙﨑裕士

  住民運動としての入浜権についてはこれまでさまざまな角度から報告されてきたが、ここでは海
岸の利用権や所有権の面からも考察してみたい。だが筆者はあ<まで住民運動の立場に立つ者であ
って、法制史が専門ではないから、学問的な批判に耐えられるものを書く自信はない。ただ、学際
的に広く(「浅く」とのそしりはまぬがれえぬが）ものを見、現実の闘いの場に役立つ理論を展開す
ることができればと願っている。
  闘いの場に役立つ理論として、私は海浜の所有形態あるいは利用形態といったものの歴史的変遷
に民衆の側と国家の側の二つの流れがあり、その
絡み合いの中から今日の海面、海岸の破壊が生じてきたこと、逆にその保全策もそこに光を当てる
ことによって見いだせるのではないかと考えるが、まだ十分に整理できていないことを断っておく。

海は誰のもの

  本来、海面あるいは海浜は誰のものだったのだろうか。私たちの祖先は自然を神の依代〈ﾖﾘｼﾛ〉
（注１）と考え、海岸を神を迎え神と交わる接線と見なしていた。その意味で海浜は、生産、採集、
休息、慰楽、葬祭、出産、修祓等の儀礼、神事・仏事などの信仰儀式といった伝統的入浜慣行（注
２）の行なわれてきた神有地＝氏子共有地だった。
  漁業も当然重要な入浜慣行であるが、自然発生的な漁撈は別として、制度化された漁業および漁
業権の問題は狭義の入浜権問題からは分けて考えなければならないだろう。
  その自然発生的な自由な漁撈が、排他的・独占的な漁業権に守られた漁業、物権と見なされる専
用水面を持った漁業にまで発達してきたのには、二つの歴史的要因があると言われる。
  それは古代末期 あるいは中世初期の供御人〈ｸｺﾞﾆﾝ〉集団の形成と、近世の大名所領制の確立に
付随する漁場の線引きとである。今はそれらについて述べる余裕はないが、後の時代の漁業権に関
わる諸問題の伏線となったものである(なお「排他的｣という語は、客観的事実を述べるものとして
一般も漁業関係者自身も用いており、筆者の主観による用語でない)。

山川藪沢の法

  太古、自然は誰の物でもなかった。人は自由に山野を渉猟し食糧を採集してその恵沢にあずかっ
た。歴史時代に入っても早い頃には自由な雰囲気が残っていた。
  中国の唐の法令に、「山川藪沢〈ｻﾝｾﾝｿｳﾀｸ〉之利、公私共之、云々」とあり、その影響を受けた
我が国においても、大化元年八月国司等に賜った勅語に「薗池水陸の利は百姓と倶にせよ」とある
という。白居易の詩に「勝地はもとより定まれる主なし、おほむね山は山を愛する人に属(ｼｮｸ)す」
(『和漢朗詠集』巻下「山」から)とあるのも同じ考え方だろう。自然は自然を愛する人みんなのも
のであったのだ。
  このような自然のありようを「山川藪沢の法」と言い、古代国家においてはむしろ常識であった
ようで、ヨーロッパでも古代口ーマ法では海面は公民の共有財産であると考えられており、洋の東
西を問わず私たちの主張する公共信託的な考え方の通用していたことがうかがえる。
  この公共信託というのは、いわゆろナショナル・トラストで言う公益信託（注３）ではない。

公共信託の考え方

  １９７８年５月、松山地裁は、長浜漁港築造差止請求訴訟、俗にいう海水浴場訴訟の判決で住民
(この場合は漁民も含めて)の入浜権の主張を退けた。海岸は国のもので住民はその使用を禁止され
ていないだけという、いわゆる反射的利益論（注４）にもとづくものであった。これに対し、「入
浜権運動推進全国連絡会議」と「入浜権研究法律家グループ」は同年８月、神戸で「第三回入浜権
シンポジウム」を開催して、同判決を批判、「公共信託宣言」を打ち出した。
「(前略)海浜を含めてすべての自然公物はわれわれの共有財産である。その平等かつ自由な使用
の保障、そのための適正な管理は本来国および公共団体の義務として信託されているはずではある
が、われわれは今ここにあらためて、自然公物の共有と、これを国等に信託するものであることを
厳粛に宣言する」
  これは、裁判所の旧ドイツ法的、国家主義的な反射利益論に対し、英米法で常識となっている民
主的な考え方であり、先に触れたようにローマ法にその淵源があると言われている。これにもとづ
いて、たとえばアメリカでは連邦法である連邦沿岸域管理法が１９７２年に制定され、多くの州も
それに前後してコスタル・アクセス・ライト（注５）、まさに入浜権を盛りこんだ条例を制定して
いる。フランスでも１９７６年１２月、海岸線の通行を保障する法律ができている。スウェーデン
には海浜の自由な使用を認める不文律「万人権」が古くからあり、ドイツでも今は「万人自然享受
権」が認められているという。第五回入浜権シンポジウムでは神戸大学の早川和男教授がスウェー
デンの「万人権」について報告しておられる。
  このように洋の東西を問わず、むしろ今私たちが主張している公共信託的な考え方が通用してい
る。我が国でも、古くはそうであったことは先に述べた。
  その後現在までの海や海浜を巡る権利関係の移り変わりについては長くて興味深い、歴史がある
が、ここでは省略する。それが中央集権的な国家のものとなり住民の手から奪い去られたのは明治
になってからである。
  明治８年の太政官令による海面官有宣言と地租改正の時の海浜官有地化からで、わずか、百年余
をのぞけば入浜権は太古から不変かつ普遍のものだったと言える。そして現在では公有水面埋立法
という稀代の悪法によるからくりで、みんなのものであるはずの海が企業などの私有物にどんどん
変えられるということになってしまったのは周知のとおりである。

公共信託か公益信託か

  先にも少し触れたが、入浜権運動がとなえる公共信託か、ナショナル・トラストの言う公益信託
かに関連して、そのナシヨナル・トラスト運動について一言ふれておこう。
  私たち自身ナショナル・トラスト運動を支持し、「入浜権運動推進全国連絡会議」の兄弟団体で
ある「日本なぎさ保存会」（小西和人事務局長、注６）を通して天神崎の運動（注７）を微力なが
ら支援してきた。しかし、これが自然保護連動の切り札であるかのように言われたのには問題があ
った。
  すなわち、私たちの考え方の基本は公共信託の考え方でなければならない。国民の共有財産であ
る自然公物を信託された国や公共団体が、公平かつ適正に運用管理し、その責任を完全に果たして
くれるならば問題は生じない。そうでないため住民がいわば緊急避難的にナシヨナル・トラスト運
動を行ない、苦労するわけて、環境庁がこの運動を推奨するのは一面有り難いが、責任回避とも受
け取れる。
  私たちは天神崎等の運動に理解と支援を続けつつも、国の施策の矛盾を批判しないではいられな
かったわけである。

入浜権か親水権か

  気をつけておきたいことがもう一つある。 最近のリゾート開発ブームの中で、 しきりにウォー
ター・フロント云々と入浜権を逆手に取ったようなことを言っているが、それは私たちの知るとこ
ろではない。
  また入浜権によく似た親水権という語について、この語自体は住民運動から生まれて来ているの
だが、比較的行政側に受けがよいようで、お役所の文書の中にもしばしば登場する。それに比べて
入浜権という語は行政には好まれないようだ。
  たとえば、入浜権運動発祥の地高砂の市の文書では私たちの運動を「渚を返せという運動」と呼
び、入浜権のようなものを親水権と言い替えている。
  たしかに親水権は良い響きを持った言葉である。「水に親しむ」というのだからいたって平和的
である。一方、入浜権という語には「入ることを禁止されている海浜に無理にでも入る」という闘
いを想像させる響きがある。そこが行政にあまり好まれない理由であろう。私はそのことにむしろ
誇りを持ちたいと思う。
  事実私たち高砂の住民連動の者は企業に海岸の開放を迫ってデモをかけ、時にはバリケード内に
実力で入り込むというようなことも敢行して、それなりの成果を勝ち得てきたのである。その語の
ニュアンスが示すように、入浜権は反公害の闘いの中で発想された言葉である。今、簡単にその経
緯を述べてみたい。

反公害運動から生まれた入浜権

  １９７２年、７３年高砂西港等のＰＣＢによる汚染が問題となり沿岸の漁獲が禁止され、近隣の
海域の魚価も暴落して、激昂した漁民たちが鐘ヶ淵化学に押しかけ排水口に土嚢を投げ込んだ。会
社はその魚を買い取って生きたまま生コン詰にして工場敷地内に埋めた。ＴＶニュースの画面でコ
ンクリートにまみれた魚たちが跳ねた。生命に対する何という冒涜か。
  ちょうどその頃裁判の行なわれていた高知生コン事件では同じ生コンが魚の生命を守るために用
いられた。高知市の浦戸湾にドロドロの工場廃水を流し込んでいた製紙会社の廃水路のマンホール
に、刑事被告人になることを覚悟の坂本九郎氏らが生コンをぶちこんだのである。氏らは有罪とな
ったが製紙工場は撤退、浦戸湾はよみがえった。
  このことに触発されて私たち高砂市民も立ち上がり、ＰＣＢの陰に隠されていた高砂本港の水銀
汚染を摘発したのが最初で、工場の排水口を監視するのに埋立地が企業に占拠されていて立入禁止
でたいへん苦労したことから、昔は誰でも自由に海岸に入ることができたはずということ、さらに
戒能通孝氏の著『小繋〈ｺﾂﾅｷﾞ〉事件』に書かれた 明治、大正、昭和三代にわたる入会権判に感銘
を受けていたこともあって、入浜権ということばを使い始めたわけである。つまり入浜権運動は海
岸の自由使用権をテコにして海および海浜の自然を守ろう取り戻そうという運動なのである。
  １９７４年、東京で開かれた「海を活かしコンビナートを拒否する東京集会」で、あの入浜権宣
言が採択されて以来、運動は全国的な広がりを持つようになった。参考までに宣言文を掲げておく。

入 浜 権 宣 言

  古来、海は万民のものであり、海浜に出て散策し、景観を楽しみ、魚を釣り、泳ぎ、あるいは汐
を汲み、流木を集め、貝を掘り、のりを摘むなど生活の糧を得ることは、地域住民の保有する法以
前の権利であった。また海岸の防風林には入会権も存在していたと思われる。われわれは、これら
を含め「入浜権」と名づけよう。今日でも、憲法が保障する、よい環境のもとで生活できる国民の
権利の重要な部分として、住民の「入浜権」は侵されてならないものと考える。
  しかるに近年、高度成長政策のもとにコンビナ－ト化が進められ、日本各地の海岸は埋立てられ
自然が大きく破壊されるとともに、埋立地の水ぎわに至るまで企業に占拠されて、住民の｢入浜権｣
は完全に侵害されるに至った。多くの公害もまたここから発している。
  われわれは、公害を絶滅し、自然環境を破壊から守り、あるいは自然を回復させる運動の一環と
して、「入浜権」を保有することをここに宣言する。
  昭和５０年２月２１日                                         （起草、提案  高崎 裕士）

運動の発展

  運動はその後、法律学や民俗学などさまざまな分野の学問とも連係して内容の豊なものとなって
きたが、元をただせば反公害運動であり、つきつめれば現代の文明そのものを問う一つの思想運動
であったと言えよう。内容の豊かさという点から言えば、その集会に公害反対運動のメンバー、ナ
チュラリスト、法律家、環境計画の学者、民俗学の研究者が同席するという具合で、大変興昧深い
ことであった。故人となった和歌山の宇治田一也氏の言葉を借りるならば、「瀬戸内のロマンと明
るさを秘めた運動」であった。
  さて、これに対する社会の方はと言えば、運動の初期の頃は高度成長のひずみへの反省もあり、
社会全体が環境問題に目を向けていた時代であったが、後半はそれを忘れ、次の破壊へと突き進ん
で来た。
  第四回入浜権シンポジウムで神戸市のポートアイランドならびにポートピアを批判し、新たな破
壊の始まりつつあることを警告したが、昨今はリゾート開発の名のもとに全国的かつ全面的な総破
壊の時代を迎えようとしている。すくなくとも高度成長への反省から生まれた瀬戸内海環境保全特
別措置法もあってなきがごとく、自然海岸の破壊が公然と計画され、大規模破壊が進行中である。
  また、１９８５年９月高砂で開催された入浜権宣言一〇周年全国集会 (第六回入浜権シンポジウ
ムを兼ねる)では、次のような「自然、ことに海に関する非常事態宣言」が採択された。
「今、人間社会は、かつて犯した高度成長期の自然破壌・海殺しの罪を忘れ、そのひずみへの反省
もかなぐり捨て二十一世紀へ向けてのバラ色の夢をふりまいて、.再び数多くの巨大な開発計画押
し出してきている。これが実行されるとき、それは自然、ことに海にとって、もはや回復すること
のできない致命傷を受けることを意昧する。(中略）この危機のときに当たって、自然、ことに海
は引き返すことのできない事態に立ち至ろうとしていることを次げ、ここに非常事態宣言を発する」
  この破壊される自然の悲鳴とも聞こえる宣言を発して以来、全国的な規模での入浜権運動の集会
は開かれていない。
  高砂での激しいＰＣＢ焼却反対運動に取り組んで、「入浜権運動推進全国連絡会議」の事務局団
体である「高砂入浜権運動をすすめる会」のメンバーが、私も含め疲れきってしまったことがその
原因である。このＰＣＢ焼却反対の運動は入浜権運動と無閑係ではないし、記録として残しておく
必要もあるのだが、ここでそれに触れる余裕のないのは残念である。

環境権との関係、特に入浜慣行のこと

  １９７７年、豊前環境権訴訟の中間的総活のためのシンポジウムが福岡県豊前市でひらかれたと
き、パネラーのひとりで立教大学法学部の淡路剛久教授は、立証のむずかしい環境権の中で、入浜
権は入浜慣行という住民の利用権をテコにして立証可能であり、ひとつの突破口になるだろうとの
趣旨のことを話しておられる。
  その利用という観点については、保護という視点と矛盾するのではないかと危惧する人もあろう。
この点について、日本自然保護協会の『白然保護』２１６号で、一橋大学助教授(当時)室田武氏が、
長崎総合科学大学の白砂剛二教授の「入浜慣行は、海辺をみんなが利用するという意味での共同利
用慣行であると同時に、そうした利用が、結果として海辺の自然環境を保全する役割を果たしてき
たという意味での保全慣行でもある」というコメントを引用して、「入浜権運動は、人間が活用す
ることによって多様性がいっそうはぐくまれる自然環境もあることを明らかにしている。海浜に限
らず(中略)人との交流のある自然環境においては、利用慣行が同時に保全慣行でもある例はこの他
にも数多くあろう」と書いておられる。上の危倶に対する答えとして十分であろう。さらに、最近
のレジャー開発などは全く論外のことである。
  そのようなものに対し、私たちの言う入浜慣行は本稿の冒頭に書いたような神有地としての海浜
における宗教儀礼などから始まってさまざまな民俗行事を含む伝統的入浜慣行と健全な市民生活の
部分をなす潮干狩や海水浴などの現代的入浜慣行である。
  後者については、どこまでを健全なものと言うのか、どの範囲までの住民について利用権を認め
るのかといった今後議論されなければならない問題があるのは確かである。
  しかし、本来の意味での入浜慣行、たとえば、ただ単に毎日海岸を歩くということだけ考えても、
それがないと埋立地の企業は好き放題に汚いものを流して海を殺すだろう。里山（注８）の場合も
同じで、入会慣行がきちんと行なわれていたときには荒廃は見られなかったし、安易に入会権を売
って、ゴルフ場にされてしまうということもなかったのである。
  入会権は海で言えば漁業権に相当し、入浜権とは少し食い違うが、その漁業権にも同じ問題のあ
るのは周知のことである。話しのついでに、漁業権との関係をのべるなら、漁業権が海の側から海
を見るのに対して、入浜権は陸の側から海を見るもので、従来漁業権だけをテコにして海を守ろう
としてきたのに対して、陸の側から、単なる側面的支援にとどまらず、陸の側自身の権利を主張す
ることでその保護に役立とうというものなのである。入浜慣行はその権利を立証することに役立ち、
収集には民俗学的手法が用いられている。高砂での一〇〇人証言集－高砂の海いまむかし』（１９
７５年９月) はその最初のものであり、以後継続的に入浜権シンポジウムの資料集などに各地の入
浜慣行が収集掲載され、まとまったものとしては、羽生槇子さん編著『海とにんげん－織田が浜の
入浜慣行集』 (１９８５年、新宿書房）、前田些代子さん編著『海への手紙－大手の浜の入浜慣行
集』(１９９０年、土佐出版社)が出されている。
  これらの記念碑的な仕事の陰には編著者や証言を寄せられた人々のこのうえなく海を愛する気持
ちと、民俗学者谷川健一氏らの専門的な立場からの力強い助言があった。そして、それぞれが、た
とえば埋立計画の中止を求める訴訟などの闘いのなかで生み出されたものであることを知らなけれ
ばならない。入浜権運動とか入浜慣行を収集するといったことは、一方で、これも字治田一也氏の
言葉だが、「しみじみとした懐かしい運動」であると同時に文明の根元を問うきわめてラジカルな
運動であることも自覚しておきたい。
  以上紙面の都合で入浜権および入浜権運動のすべての面について記述することはできなかった。
そうしたものの必要のある場合は、比較的新しいものとして、次のものなどを参考にしていただけ
ればと思う。

髙﨑裕士「自然海岸の保全と再生」　（環境庁自然保護局編『ナショナルトラストへの道』所載、
         ぎょうせい、１９８１年）
髙﨑裕士「入浜権運動の発生とその展開」（『事例・地方自治〈案教保全〉』所載、ほるぷ出版、
         １９８４年）
髙﨑裕士「総説－入浜権および入浜権運動」（『入浜権宣言１０周年全国集会・第六回入浜権シン
         ポジウム資料集』所載、入浜権運動推進全国連絡会議、１９８５年）

（注１）依代
  樹木、岩、石、山、川、海などを古代人は神の霊の宿るところとして恐れ、また大切にしていた。
その考え方は今日でも神道や民間信仰、民間伝承の中に残っている。例えば奈良県の大神神社は三
輪山を御神体として崇め、本殿を持たない。このように神霊の宿る自然物や、神霊が出現する時の
ヒトガタなどの媒介物を依代という。
（注２）伝統的入浜慣行
  海水浴や釣りなどの近代的なスポーツあるいはレクリエーションに対して、伝統的に行なわれて
来た海岸での慣行をいう。それは人びとにとって慰楽であるだけでなく、生業や信仰行事でもあっ
た。 兵庫県高砂などで行なわれていた「しんがさんにち」や 広く南西諸島で今日まで続いている
「はまおり」行事などは特に有名であるが、どんなところにもあった無名の慣行も同様に大切なも
のと考えなければならない。
（注３）公共信託・公益信託
  社会構成員の共同の持ち物である自然などの公物の、平等で自由な使用の保障を含む適正な管理
は、国および公共団体に委ねられていると考えることができる。これが公共信託である。
  それに対して英国やオーストラリアで盛んなナショナル・トラス運動とか、日本の天神崎の運動
のように、広く一般の寄付や募金で自然の歴史的建造物などを買い取って保存する方法を公益信託
と呼んで区別している。
（注４) 反射的利益論
  青果商が公道にまで野莱を陳列して商売していても、特に邪魔でなければ取り締まられることは
ない。かといって青果商にその権利があるわけではなく、禁止されないことから反射的に利益を受
けているに過ぎない。これを反射的利益という。この考え方に基づく理論を反射的利益論という。
松山地裁は長浜町住民の訴えはこの青果商の権利主張のようなもので、認められないとした。しか
し青果商一個人が道路の一部に権利を主張するのと、地域社会の大多数の住民や、さらには広く国
民全体の、いわば共有の形で利用している入浜慣行に基づく主張とを同一に論じることはできない。
(注５) コスタル・アクセス・ライト
  Costal Access Right 文字通りだれでもが海岸に近付く(海岸に出る)ことができるという権利。
(注６) 日本なぎさ保存会
  １９８０年３月２９－３０日、兵庫県高砂市で開かれた「入浜権宣言５周年全国集会」で入浜権
運動推進全国連絡会議の兄弟団体として設立された。海岸と後背地を埋め立てなどの破壊から守り、
入浜権を確率するため、調査研究・生態系の保護等の運動を行なうことを目的としている。事務局
は大阪の「週刊釣りサンデー」社の中に置かれている。（注の注、その後「週刊釣りサンデー」社
は解散、「日本なぎさ保存会」も実質、存在しなくなっている。）
(注７) 天神崎の運動
  １９７８年３月、和歌山県田辺市の外山八郎氏らの住民が始めた運動で、天神崎の海岸を開発に
よる破壊から守るための募金で集めた基金により買い取って保存しようとするものである。大仏次
郎氏らの「鎌倉風致保存会」の運動や北海道斜里町の「知床１００平方メートル運動」とともに日
本におけるナショナル・トラストの嚆矢とされている。
(注８) 里山
  海のうち海岸、ことに砂浜は住民が近付くことができ、さまざまな恵みを受け取ることができた
ように、山地のうち村里に近い部分は、いわゆる入会地として住民に親しまれ、さまざまな利益を
与えてきた。このような村里に近い低山を里山という。




入浜権運動サイト

『入浜権の概要と法的側面（山川藪沢の法･･･万人権）』 髙﨑 裕士

『入浜権の概要と法的側面（山川藪沢の法･･･万人権）』

髙﨑裕士